限定承認

限定承認とは何か?単純承認との違いやメリット・デメリット

相続の方法の一つで、限定承認という方法があります。
特殊でとても複雑な方法ではありますが、うまく手続きを進められれば希望をかなえられる有効的な手段ともいえます。

いざ相続となったときに借金などといった負の資産もあるので一概に相続放棄して、負債を背負うのから逃れるという方法があります。ただこの方法では、せっかく何十年もかけて築かれてきたプラス資産も手放してしまうことになります。

プラス資産からマイナスの資産を引いてプラスの部分が残るなら、このプラスの部分だけでも相続したいと思うのは理にかなっています。限定承認ならば、これを実現する可能性があるのです。

そこで今回はこの限定承認につきまして、限定承認そのものや留意点等にも触れながら解説します。
 

【目次】
1.限定承認とは
2.限定承認と単純承認・相続放棄の違い
3.限定承認・単純承認・相続放棄のメリット・デメリット
4.どんな場合に限定承認が使えるの?
5.限定承認の注意点
6.限定承認と相続財産・債務の弁済
7.相続財産の換価方法
8.まとめ

 

1.限定承認とは

限定承認とは相続人が相続によって得たプラス財産の範囲内でのみ、被相続人(資産などを遺して亡くなる本人)の債務及び遺贈を弁済するという留保付きの相続承認の方法のことです。

換言すると、一旦プラス財産とマイナス財産のすべてを承継します。ただマイナス財産(債務などの負債)については、承継したプラス財産の限度内でしか責任を負わないということです。そしてプラス財産の中から負債を弁済し、仮に現金などで余りがあれば相続もできます。

2.限定承認と単純承認・相続放棄の違い

(1)マイナス財産に対する相続人の責任
限定承認 単純承認 相続放棄
相続人固有の財産からも
返済に充てる必要性
× ×

仮に、承継したプラス財産よりマイナス財産の方が大きいとします。限定承認では承継したプラス財産を処分した範囲でマイナス財産(債務などの負債)の返済にあてることで、それ以上の責任を負わないというこいとです。この一方で単純承認の場合は、責任・義務が生じます。
要するに相続人は自身の財産を処分し費用を調達してまで、マイナス財産の返済をする必要はないといえます。相続放棄では、原則完全に相続財産から離脱となります。

(2)意思における相続人の一致
限定承認 単純承認 相続放棄
申し立てに相続人全員の同意が必要 × ×

限定承認で相続人が複数いる場合(共同相続人)、その相続人全員が一致して限定承認の申述申し立てを行う必要があります。
これは相続人のうち一人でも限定承認に納得がいかない場合には、限定承認自体ができないということを意味します。
これに対し単純承認の場合限定承認のような手続き上の制約はなく、相続人それぞれの判断にゆだねられることになります。

3.限定承認・単純承認・相続放棄のメリット・デメリット

限定承認 単純承認 相続放棄
家や先祖伝来の家宝などを守れる ×
思わぬ負債が生じ、
相続人が責任を取る可能性がある
× ×
複雑な調査や手続きなどが必要 × ×
(1)メリット

①限定承認

  • 家など守りたいものを守れる可能性があります
  • マイナス資産を引いた分で余ったプラス資産を売却して、新たな現金などを作れる可能性があります

②単純承認

  • 家など守りたいものを守れます
  • 家庭裁判所への申述という手続きも不要です

③相続放棄

  • マイナス資産から解放されます
  • 各相続人が単独で行えます

 

(2)デメリット

①限定承認

手続きが非常に複雑で、すべての手続きが終わるまで、かなりの時間を要します。

②単純承認

明らかになっているマイナス財産(負債など)はもちろん、思わぬマイナス財産(負債など)を背負う可能性があります。

③相続放棄

  • 相続できる家などを失います
  • 相続人全員が相続放棄を行い相続財産の清算が必要な場合(相続財産管理人による相続財産の処分が必要になる場合)、一定のコストと時間がかかることがあります。

4.どんな場合に限定承認が使えるの?

もっとも一般的なのは「リスクの回避」を目的とする場合です。

(1)隠れた借金(負債)のおそれや不安がある場合

後日負債(借金) が発覚した際に、引き継いだプラスの財産の範囲でしか支払い義務を負いたくないときです。

(2)プラス財産の金額が不明瞭な場合

引き継いだプラス財産の価値が不明確な時に、限定承認を行っておきます。すると万が一マイナス財産(負債)の額がプラス財産の価値を上回っても、債務超過になるのを防ぐことができます。

(3)債務超過が分かっていて、相続放棄手続きを取り難いとき

①後順位の相続人問題

第一順位の相続人(子供など)が全員放棄したら、第二順位の相続人(両親などの直系尊属)が相続人となります。そして第二順位の相続人が全員相続放棄すると、第三順位の相続人(兄弟など)が相続人となります。
このようなケースで諸々の事情により債務超過の事実を、限られた人間だけが知るに留めておきたいといった場合にも用いられる方法です。
引き継いだプラス財産によって相続債権者に配当を行い、財産が無くなればそれ以上の支払い義務はありません。相続放棄と同様の効果ともいえます。

②他の遠い親族に迷惑をかけたくない

万が一後から相続人になってしまったご親族が、相続放棄の手続きに失敗する・法律をあまり知らずに債務に何も措置を取らずにいたというケースがあったとします。
このケースは、最悪後から相続人になってしまったご親族が、被相続人の借金(負債)をすべて引き継いでしまう可能性があります。
限定承認ならば、このような事態も防げます。

(4)管理義務を負いたくない

故郷にもう長い間誰も住んでいない空き家があったとします。仮に相続放棄しても、この空き家に対する管理義務は残ります(民法940条)。
ただ限定承認手続きでは債権者への弁済を行うため、プラスの財産は売却(競売など)を行い現金化します。
財産に不動産があれば売却して、第三者に名義譲渡となります。つまり債務超過であっても限定承認手続きによって、管理義務を安全に手放すことができるというわけです。

(5)特定の財産を手元に残したい

マイナス財産の方がプラス財産より大きい場合、面倒だから相続放棄かなと一見イメージする方がいらっしゃると思われます。
ただ限定承認手続きの場合手続きの中で、相続人は優先的に相続財産の一部を買い取ることができます。
法律的にはこれを「先買権の行使」といい、鑑定人が鑑定した評価額以上を支払うことで相続人がそれを優先的に買い取れる制度です。
たとえ債務超過の相続であっても、この制度で資金さえあれば手元に残したいものがある場合メリットといえます。

(6)限定承認が選択された事例

※出典元:身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本P154椎葉基史著

ある方が交通事故に遭い、加害者から支払われる損害賠償が確定していない間に本人が亡くなったというケースです。
こちらの亡くなった方には多額の借入金があったため、損害賠償の額によっては債務超過になる可能性がありました。ゆえに限定承認という選択に至りました。
ある亡くなった方が知り合いにお金を貸している一方で、本人にも多額の借り入れがありました。
もし知り合いに対してもっている債権が不良債権になれば、結局回収できないという事態も起こりえます。
こうなれば本人の借り入れの方が大きくなるのではという予測もありました。
そこで限定承認となったわけです。

5.限定承認の注意点

(1)相続人全員で手続き

相続人全員による同意が必要なのはもちろん、仮に相続人の中で誰か一人が単純承認をしてしまえば他の相続人が限定承認を選択できなくなります。ただ相続人の中で誰かが相続を放棄すれば、残った相続人全員で限定承認手続きは可能となります。

(2)みなし譲渡所得税(所得税法59条)の存在

相続した不動産の評価額が相続発生時点で値上がりしていると「みなし譲渡所得税(所得税法59条)」という税金が生じます。仮に相続時の時価額が、被相続人がその不動産を取得した時点より値上がりしていたとしましょう。こうなると限定承認では、この値上がり分に対して課税があるのです。

(3)原則3ヶ月以内と期間の伸長

限定承認は被相続人が亡くなったこと・自分が相続人であることを知ってから、3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります(民法915条1項)。
この3ヶ月を過ぎると原則として限定承認はできなくなり、自動的に「単純承認」になります(民法921条2項)。
ただ実際限定承認をするか否か考え始めると、3ヶ月では結論を出すには時間が足りない時もあります。
例えば不動産や株などの評価に時間がかかる、どこで連帯保証人になっているか調査に時間がかかるといったような事情がありえます。
このような場合、家庭裁判所に期間の伸長を申請するという方法があります。

(4)限定承認の取り消し

限定承認は、熟慮期間内でも撤回することはできません(民法919条1項)。ただし民法に定められた事由(民法865条など)がある場合には、限定承認を取り消すことができます(民法919条2項)。
方法としては限定承認の申述をした家庭裁判所に対し、限定承認の取消申述書を提出します(民法919条4項)。
そして家庭裁判所が限定承認の取消申述書の受理を審判すると、取消が有効となります。

6.限定承認と相続財産・債務の弁済

限定承認によって相続債務の弁済にあてられるべき相続財産は、相続が始まったときにおいて被相続人がもっていた一切の権利(一身専属の権利は除く)となります。

(1)相続遺産の中にある賃貸アパートの賃料債権と債務弁済

相続遺産の中にある賃貸アパートによって生じた賃料債権は、相続債務の弁済にあてる必要があります。相続開始後に相続財産から生じた果実などは、相続開始時に存在する財産そのものではありません。
ただ、相続債務の弁済にあてられる相続財産に含まれるとされています。

(2)相続財産から弁済できる費用・債務

相続財産に関する費用は、その相続財産の中から支払うことができる(民法885条1項)。

①相続財産から支払えるもの

  • 限定承認の申述受理後の相続債権者及び受遺者に対する公告の費用
  • 条件付債権の弁済のための鑑定費用

相続債権者及び受遺者に対する公告の費用・条件付債権の弁済のための鑑定費用は、相続財産や相続財産の清算手続きに関するものであるから、相続財産の中から支払ってよいと考えられています。

②相続財産から支払えないもの

  • 限定承認の申述に係る手続費用
  • 先買権の行使の際の鑑定費用

限定承認の申述に係る手続き費用・先買権の行使の際の鑑定費用は、相続財産の維持管理のためのものではなく限定承認者の利益のためになされます。よって限定承認の申述に係る手続き費用を、相続財産の中から支払うことはできないと考えられています。

7.相続財産の換価方法

(1)競売による換価

限定承認における清算のために相続財産を売却する必要がある場合は、原則として裁判所における競売に付す必要があります(民法932条)。
注意点として競売に付す必要がある相続財産は不動産に限らず、家財道具などの動産・株式・投資信託などの金融資産・そのほか債権も含まれるということです。

ここで先ほども触れましたが競売手続きにおいては、限定承認者または相続財産管理人は自ら買受人になれるというのも留意点といえます。

(2)競売により換価が実現できない場合

相続財産を入札に付しても落札者が現れず、相続財産の換価が実現しないことがあります。
この場合民法932条ただし書きに基づく先買権の行使や、相続財産の任意売却などの処理が検討されることになります。ただ民法932条本文の趣旨では、任意売却によって不当な廉価で換価さえる弊害を防止し衡平な換価が期待される意図があります。
しかしそれでも売却によって相続債権者及び受遺者に損害が生じた場合には、限定承認者は不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解されています。

(3)先買権の行使による換価

家庭裁判所が選任した鑑定人によって、評価額が鑑定されます。ここで限定承認者がこの評価額以上の金員を、相続債権者及び受遺者に弁済することにより競売を止めることができます(民法932条ただし書き)。
この競売を止めることができるというのは単に競売手続きを中止ないし停止できるということだけでなく、当該相続財産を取得する権利が認められているとも解されています。

8.まとめ

以上限定承認について述べてきました。限定承認という言葉が意味することは、全体的に複雑な傾向にあります。特に重要なこととして、次の2つが考えられます。

  • 残したいものを残せる可能性がある
  • 手続きがとても複雑

そして時には、相続放棄と同等の効果をもたらす手段としても有効であるとも考えられるということです。
皆さん限定承認を効果的に利用することで、どうしても守りたいものだけは守れるように頑張られてはいかがでしょうか。

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