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独身高齢者必見!おひとりさまの終活〜 「死後事務委任契約」

 新型コロナウィルスが猛威を振るう最中において、「突然に、いつ、誰にでも死が訪れうる、そしてあるいは自分も例外ではない」と、漠然とした不安、あるいは切迫した思いを抱かれる方も多くなっていることと思われます。
特に独身の方や、配偶者に先立たれるなどでおひとりで生活をしている「おひとりさま」と呼ばれる方々は今まで以上に自身の死後や相続についてお考えなのではないでしょうか。
そこで今回は、おひとりさまの終活「死後事務委契約」についてお話させていただきます。

 

【目次】
1.おひとりさまの死後、どんなことが困る? 「死後事務」の煩雑さ
2.おひとりさまの「死後事務委任契約」とは
3.遺言だけではダメ?〜死後事務委任と遺言の違い 
(1)死後事務委任契約で出来て、遺言書では難しいこと
(2)遺言書で出来て、死後事務委任契約では難しいこと
4.おひとりさまの「子なし相続」~「老老相続(老々相続)」「認認相続」となる可能性

 

1.おひとりさまの死後、どんなことが困る? 「死後事務」の煩雑さ

今年は年初から新型コロナウィルス感染症の流行により緊急事態宣言が発令され、学校の休校や不要不急の外出自粛要請など、今まで例のない出来事が続き、私たちの考え方や生活様式も大きく変わりました。
2020年3月29日には志村けんさんが、新型コロナウィルス感染症により永眠。志村けんさんのお兄様もご遺体と対面も出来ず、ご遺骨となった志村さんと対面されました。
新型コロナにおいては、罹患者は重篤になってしまうと隔離されるため、ご家族はご遺体に触れることができない、場合によっては患者さんの死に際に立ち会うことすら叶わないことがあるようです。
 新型コロナだけでなく他の病気や事故の場合でもそうですが、ある日突然にご家族やご親族が亡くなってしまった時、ご遺族は亡くなった方を喪った深い哀しみや心理的負担もさることながら、そのことに向き合うこともままならないほどの、膨大な量の「死後事務」という負担がのしかかります。
たとえば、死亡届けや火葬・埋葬許可申請、各種年金手続などの行政へ提出する書類の用意、火葬場・埋葬などの手配、送付すべき人々を熟慮した上での友人知人への訃報の連絡、遺品整理に賃貸住居の明渡し、クレジットカード・電気やガス・そして各種サービスの解約など。
 加えて、ご遺族が相続人となって遺産を相続する折には、上記死後事務に加えて相続手続も必要となり、相続するか相続放棄するかを判断するために、相続財産の把握と借金の調査がなされますが、これは一般に想像されている以上に手間を要します。実際、志村けんさんの場合には、志村さんは2頭の愛犬を遺されたほか、志村さんの兄・知之さんは志村さんの相続財産について詳細を把握しておらず、資産の把握についてかなり当惑されたようです。
 志村けんさんのように配偶者も子もいらっしゃらない方の場合、ご両親や兄弟姉妹が相続人となります。昨今ではこのように、配偶者や子供のいらっしゃらない「おひとりさま」の相続人となる方は、決して珍しくありません。
 
おひとりさまとは
 
 「おひとりさま」とは、子供がいない状態で、結婚相手に先立たれた方、あるいは生涯独身であった、または、かつて結婚していたが子供はおらず、離婚された方など、種々様々な身の上で、配偶者や子供がいない方のことを示します。
近年の加速する超高齢化社会においては、「おひとりさま」である高齢者の方の人数は増加しており、さらには現在のコロナ禍の影響もあり、孤独死への不安や自身の死後の「後始末」を問題視する方が年々増えていくことが予想されます。
したがって、「おひとりさま」にとって、今後、自身の相続対策の知識や、死後の諸手続をあらかじめ準備しておく「死後事務委任契約」の知識は必須といえるでしょう。

 

2.おひとりさまの「死後事務委任契約」とは

 先ほど記したように、おひとりさまが亡くなったあとには、ご家族やご親族には膨大な量の「死後事務」がのしかかります。先ほど挙げたような、
 

  • 病院などの医療施設や、老人ホーム・介護施設などの入居施設、終の棲家(すみか)を後にする手続き
  • それら入院、入所施設の実費清算費用の支払い
  • 自宅が賃貸の場合には、その家賃支払い、解約、片付け
  • 死亡届け等の書類の作成・届出
  • 死亡年度の住民税や固定資産税の納税、年金停止の手続き
  • 知人友人への訃報の連絡
  • 未納家賃の支払い・家財道具の整理
  • 電気やガスなど、公共料金の清算手続き
  • 携帯電話(スマホ)・生協宅配・習い事などの解約
  • 金融口座・クレジットカードの解約処理や生命保険受領の手続き
  • 株式などを含めた全資産と借金総額の調査、未払い債務の整理

 
といった手続き事項のほかにも下記のような、
 

  • ご葬儀や納骨の規模やかたちは。密葬・家族葬で行うか?
  • お通夜や告別式はどこでどう行うか。誰を呼ぶか?
  • お墓はどこに、墓石はどのようなかたちで建立するか
  • 愛犬や愛蔵品といった、残されたペットや遺品をどのように整理するか
  • Twitter等のSNSアカウント、メールアドレスは削除するか

 
といった難しい決断の数々を、ご遺族は亡くなった方との相談抜きに決定しなければなりません。
 亡くなってゆく本人の側からしても、
 

  • 頼れる兄弟が高齢である
  • 親族が遠方に住んでいる
  • ひとり暮らしで周りに親戚がいない
  • 兄弟と不仲で意思疎通がとりにくい
  • 身内は疎遠な甥や姪だけである
  • 唯一の親戚が失踪・蒸発・出奔していて連絡がつかない
  • 配偶者と離婚して離れた子供がいるが、何十年も会っていない

 
 といった場合には、「残された家族(親族)に重い負担がかからないか?」が心配であったり、あるいは、「埋葬は希望通りにしてもらえるか?」「愛蔵品の処分に関して、希望通りに対処対応してもらえるか?」など、自分の最期の遺志が死後事務を行う方に伝わるか、が気がかりであるかもしれません。
 そこで、「おひとりさまの相続」(「子なし相続」とも呼ばれます)という事態に備え、ご家族の死後事務の負担を軽減する、希望通りのお見送りを叶えるための非常に有効な手続きとして、「死後事務委任契約」という契約が考えられます。
 
死後事務手続き
 

「死後事務委任契約」とは、いわゆる終活の一環としてエンディングノートに書かれるようなこと、つまりは遺品処分や葬儀納骨の希望などを第三者(個人または法人)に伝え、手続きを委任する契約になります。(おひとりさま以外でも、同性カップルや内縁の夫婦関係にある方々にもおすすめできます)

 死後事務は一般に、配偶者様やお子様、ご両親などの遺産財産を引き継ぐ方(相続人)によって行われます。しかし「おひとりさま」の場合の相続人は、兄弟姉妹や甥・姪、その娘息子だけ、はたまたそれすら存在しないなどの状況となるので、おひとりさまの死後事務では、一筋縄では行かないような事態がしばしば生じます。
 たとえば、老齢のご兄弟が死後事務を執り行うことになるので、銀行や役所役場へ通うことが難しい・足腰への負担となる、認知症を患っていて死後事務を遂行できない、気力・体力が落ちこむ中で煩雑で膨大な量の事務に追われ、遺志が書かれた書類を見過ごしてしまったというケース。
あるいは、自宅の周囲に親族がおらず、兄弟姉妹とも疎遠であるので、死後事務についての遺志がうまく伝わらない、といった事例。場合によっては顔も見知らぬような甥・姪の子によって行われることになる、といった事態が考えられます。
 しかし事前に死後事務委任契約を結んでおいた場合には、司法書士や行政書士・弁護士などの信頼できる第三者に複雑で負担の重い死後事務・業務を任せることが出来るので、遺族の負担を大幅に軽減した上で、意思に沿った手続きが可能になります。

 もう少し掘り下げて解説すると、死後事務委任契約には、ご本人が熱に希望するような、特別な埋葬に必要な依頼手続きも専門家に一任できる、というメリットも存在します。
具体的には「永代供養を受けたい」「海洋散骨や樹木葬、宇宙葬といった、どこか墓石以外の場所に眠りたい」といったもの、あるいは先祖代々の墓や、親族の加入する団体とは異なる宗教宗派で葬儀を受けたい、など。また、「親交のあった方々に残したい何かがある」「SNSアカウントやメールアドレスを削除してほしい」「形見分けをしたい。ビデオレターや遺言状を、お世話になった人へ届けてほしい」といった希望なども、死後事務委任契約では受任者が責任をもって遂行するので、最期の希望を確実に、依頼・遂行することが可能になるのです。

 

3.「遺言だけ」ではだめなの?〜死後事務委任と遺言の違い

 「希望する死後事務を遺言に書くだめなのか?」と思われる方もいるかもしれません。結論から言えば、死後事務委任契約と遺言作成は、基本的にはふたつとも、一緒に準備しておくことが推奨されます。 

(1)死後事務委任契約で出来て、遺言書では難しいこと

 遺言はあくまでも財産承継のルールを定めることを目的としています。預貯金を○○に寄付するなどや、自宅を○○に遺贈するなど、承継先を選定するのが遺言の主な目的です。
遺言の内容を実際に実現するために遺言執行者を定めることが可能ですが、あくまで法律上有効な遺言事項のみしか権限を与えられておらず、自身の葬儀は○○でして欲しいとか、埋葬は○○寺にして欲しいなどを定めていたとしてもそれは付言的な遺言事項とされ、法的に拘束力はなく、確実な死後事務の実行は期待できません。
 例えば葬儀の在り方をめぐって、高額な費用や宗教宗派上の問題などから家族に反対された場合などには、遺言書に書かれていることをもってのみでは、法律上手続きを実行することが難しくなります。あるいは、本人に身寄りがないために行政の手によって葬儀が行われる場合にも、遺言事項が叶えられるかどうかという保証がなくなってしまいます。
 一方で、死後事務委任契約では、委任者と受任者との正式な委任契約の中で内容を定めますので、法的な拘束力をもって信頼できる第三者に生前に死後事務の委任をすることができます。また、受任者も契約上の拘束力が発生するため、遺族の意思よりも契約内容通りの死後事務を遂行する義務が生じます。
そのため、遺言書には書かれていないが普段使いの日記帳やエンディングノートに記されたような意思や、書き漏らした細々としたこと、そして新たに発生した問題などにも容易に対処することができるのです。
 

(2)遺言書で出来て、死後事務委任契約では難しいこと

 注意すべきこととして、死後事務委任契約では、依頼された人や業者が執り行える範囲はあくまで死後の「事務」に限り、遺産相続や分割を執行する権限がありません。つまり簡潔に言えば、死後事務委任契約だけでは、受任者は遺産の執行に関わることができません。ちなみに、死後事務委任契約を締結する際に、預託金(死後事務の実費費用と執行報酬等)を預けることが通例なのですが、この理由も死後事務に要する費用をお金が「遺産」になる前に支払う必要があるということによります。

 別の言葉で言えば、確かに死後事務委任契約は「相続人」が行う「死後事務」を代理する契約なの*ですが、受任者が触れることができるのはあくまで葬儀や連絡と言った「死後事務」だけで、「相続」にまつわる手続きを引き受ける権限がないと言えます。ですので、死後事務委任契約だけの締結では、遺産の配分に関する指定を実現することはできません。したがって、死後事務委任契約に加えて、一定の形式に則った遺言で作成しておくことで、社会貢献団体や協会、老後お世話になった施設に対する遺贈・寄付などを実行することが可能になるのです。

(*厳密に言えば相続人と死後事務を依頼される範囲は僅かに異なります。)
(なお、民法653条では委任契約は委任者が死亡の際には終了すると規定されていますが、最高裁の判例によって死後事務委任契約は故人の契約であっても効力を有するとされているので、相続人によって契約が解除されることはありません。)

 

4.おひとりさまの「子なし相続」~「老老相続(老々相続)」「認認相続」となる可能性

 「おひとりさま」が亡くなられたとき、「おひとりさまの相続」(「子なし相続」)では、様々な死後事務が高齢なご兄弟や疎遠な親戚にのしかかることがありえます。そこで、自分の望むような納骨や供養を受ける上でも、死後事務委任契約をむすび、死後の手続きを委ねることは、おひとりさまにとっておすすめできる選択肢のひとつであると言えるでしょう。
 なお先程の「一筋縄ではいかない事例」としても少し触れましたが、この「おひとりさまの相続」の多くで、被相続人と相続人のどちらも高齢である「老老相続」や、そして時には相続人が認知症であるという「認認相続」という問題が伴う可能性があります。
「老老相続」や「認認相続」では死後様々な手続きがスムーズに対処できない可能性が高く、死後事務委任契約が強くおすすめされるのですが、「老老相続」において相続人の身体が不自由である場合や、「認認相続」において相続人が認知症の場合には、死後事務委任契約だけを締結することが最良な選択肢、とは限りません。
 死後事務委任契約が委任できるのはあくまで「死後」の事務に限られるので、生前のサポートが必要であれば、死後事務委任契約に加えて一つか二つの契約を、たとえば「財産管理委任契約」「任意後見契約」「任意代理契約」「見守り契約」「民事信託」といった契約を結ぶ。あるいは、亡くなる本人が認知症になり死後事務についての判断ができなくなってしまう・判断能力の低下・喪失というリスクに備えて、「家族信託」や「成年後見人制度」による支援・契約を利用する。あるいは、「身元保証契約」や「尊厳死宣言公正証書」など、状況によって死後事務委任契約とともに様々な種類の契約の中から適切なものを選ぶことで、ひとりひとりにより良く適した支援が可能になります。

 加えて、特に、会社経営、事業経営をされている方の場合には、事業をめぐって「事業承継の死後事務」や「事業廃業死後事務」等の手続きが必要となります。
事業経営をされている方の場合は手続きが更に煩雑になるので、司法書士や行政書士、弁護士事務所など、実務に精通した、信頼のおける専門家への確認・相談を検討することをお勧め致します。

 実際の流れ等の詳細・解説は、また別記事にて。
  

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(東京司法書士会 第7875号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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